純文学1000本ノック

ただひたすらに純文学の読書感想を並べていきます。

純文学1000本ノック 76/1000 加藤秀行『サバイブ』

 

どうも、こんにちは。

 

今回は加藤秀行の『サバイブ』です。作者は本作で文学界新人賞を受賞しデビューしています。

 

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1.ざっくりあらすじ

高校生までを柔道一筋で過ごしてきた主人公のダイスケは、目標もなくカジュアルなバーでアルバイトをしながら、共に外資系につとめる亮介とケーヤの3LDKの家に居候をしている。二人にくらべて時間に余裕のあるダイスケは家事をすることで、二人からお金をもらっている。亮介の代役で会社のフットサルに参加したダイスケは、レナという外資コンサルで働く女と出会い付き合う。やがてケーヤは仕事を首になり、空いた部屋にレナが入った。

 

2.作品解剖

(1)文体★★☆

ブランドの固有名詞をたびたび使うことで、主人公以外が属している階級が見えてくる。描写は簡潔だか、ふと止まって読んでしまう不思議な感覚があった。

(2)構成★★☆

スタートに主夫、子どもはまだない、というフックがあり、その後、適宜過去を交えながら進んでいくストーリー。

(3)論理★★☆

なぜ主人公だけが資本主義的な価値観に染まりきっていないのかを不思議に思った。

(4)テーマ★★☆

タイトル通り、生きること、を探求していると思った。それぞれの人がどんな価値観で生きているのかを描こうとした作品である。2000年代の空虚感や目に見えないものとの戦いなど、現代の問題の考察にも富んでいる。

 

3.総合評価と感想

総合★★★☆☆

「雲の上でフワフワとした」人たちのなかに一人ぽつんといながら、俗世的な価値観から乖離した主人公の話。考察に富み、ブランド名を多用する文体などは面白かった。まだ作者はすべてを出しきれていないように感じた。主人公はある意味特殊なので、柔道だけではその価値観を説明しきれていないように思えた。