純文学1000本ノック 59/1000 高橋弘希『指の骨』
どうも、こんにちは。
今回は高橋弘希の『指の骨』です。2014年新潮新人賞を受賞し、2015年同作で芥川賞候補になっています。
1.ざっくりあらすじ
第二次世界大戦中、南方前線のパプアニューギニアへ移送された主人公は、所属部隊が作戦によりほぼ壊滅するなか、銃弾を三発受けながら生還し、野戦病院に収容された。病院内で絵を学ぼうとしていた清水や幼い子どもを日本に置いてきた眞田、軍医などと交流を深める。病院内ではマラリアや風土病により、次々と人が死んでいく。その日々のなかで、戦場で一度死の感覚を忘れた主人公はあらためて死と向き合いはじめる。清水と眞田が死に、眞田の指の骨を預かった主人公は、連合軍が侵攻してきていることを知り、サラモウアを目指す飢餓の行進に参加する。そのなかで死の淵にたった人間たちのさまざまな姿をみる。
2.作品解剖
(1)導入★★☆
‟黄色い街道がどこまでも伸びていた”からはじまる本作。仲間たちが次々息絶えていくなかで、はてしなく長い道を進んでいく主人公のうつろな姿が浮かんでくる。
(2)描写★★★
短い文から構成される簡潔で丁寧な描写が最後まで一貫してつづいている。
(3)内面★★☆
直接的に描かれる場面は少ないが、描写によって変化していく内面がしっかりと描かれている。
(4)文体★★☆
セリフ少なく、ほとんどが描写によって表現されている。
(5)構成★★☆
黄色い街道を歩く現在、穴倉で気を失ったとき、野戦病院に入ってから、それから、野戦病院での思い出がつづき、作戦のときなどにも記憶が及びつつ現在に戻る。
(6)論理★★☆
大きな論理的矛盾点はない。
(7)テーマ★★☆
戦争における死がなまなましく描かれている。死の匂いは冒頭で濃厚に漂い、作品の中に常にある。ただ、この時代に戦争を描くことの理由は見えてこなかった。
3.総合評価と感想
総合★★★★☆
文章を見ていて非常に地力のある作家による作品だと思った。まったく体験したことの無い戦争という世界の暴力と死をここまで描き切るのはすさまじい。ただ、この作品を通して、なにを描きたかったのか私には理解しきれなかった。戦争の凄惨さなのか、死のリアルと哀しさなのか。