純文学1000本ノック

ただひたすらに純文学の読書感想を並べていきます。

純文学1000本ノック 55/1000 岡本学『架空列車』

どうも、こんにちは。

 

今回は岡本学の『架空列車』。2012年群像新人文学賞を受賞した作品です。

 

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1.ざっくりあらすじ

人生に疲れた男が、ひとりで東北の海沿いの街に住み始める。生産的な活動を一切せずに過ごそうとしていた男は退屈に疲れ、無為な活動として街に架空列車を作り始める。路線は徐々に増えていき、自転車で架空の時刻表通りに走る実運行を繰り返す男は架空列車に手ごたえを覚える。そんなおり、東日本大震災が起こり、街は津波に飲み込まれる。男は自分の架空列車のために架空路線の瓦礫を撤去して過ごす。その過程でさまざまなものを失った人々に出会い、自分とのギャップに悩むが、最終的に、彼らの失ったものも今では架空ではないか、との思いに至る。

 

2.作品解剖

(1)導入★★☆

‟地図を眺めながら酒を飲むことが、何よりも楽しかった”からはじまる本作。平易な文章で男の経緯が語られていく。

(2)描写★☆☆

描写部分は淡々として、時間の流れも速い。目につく部分もなく悪目立ちする部分もなく進んでいく。個人的に物足りなさを感じてしまう。

(3)内面★★☆

男の心情が変わるごとに描かれている。わかりやすいが、最終部分まで特筆すべき盛り上がりもない。

(4)文体★★☆

平易でわかりやすい。一方で、文学的魅力はすくない文体かもしれない。

(5)構成★★☆

前半から中盤にかけての架空列車の作成に多くを割いており、後半で突然崩れていく日常を描いている。淡々としていた分、津波による痛みが大きく迫ってくる。

(6)論理★★☆

内面も丁寧に描かれているので、論理的矛盾もなく、綺麗に進んでいく。構成と共に作者の経験値を感じさせる部分である。

(7)テーマ★★☆

うまく社会と馴染んでいけない男の人生の空虚感が現れている。盛りだくさんになることなくその一点を丁寧に追っている。

 

3.総合評価と感想

総合★★★☆☆

前回読んだ『鶏は鳴く』とは打って変わって、まさに平均点とも言うべき作品である。熱量や面白味は前回の作品に軍配があがるが、すべてを綺麗にまとめる力は本作が圧倒している。個人的には熱量のある作品の方が好みだが、2020年度芥川賞候補にもなっている作者の作家として経験値を積み飛躍した作品を今後読んでみようと思う。