純文学1000本ノック 120/1000 奥泉光 『三つ目の鯰』
こんにちは。
今回は芥川賞を受賞した奥泉光の芥川賞候補作『三つ目の鯰』です。
1.ざっくりあらすじ
主人公のサトルは東京の大学に通っているが、父の死に際して父の故郷である庄内の農家に行く。そこで叔父のマモルとワタルと時間を過ごし、後継者不在の問題があることを知る。ワタルは牧師をクビになり未婚の状態で、見合いをし家を継ぐ流れになるが、サトルと盆に釣りに行く禁忌を犯し、啓示的な驟雨にあい、再び牧師をやろうと思う。
2.作品解剖
(1)文体★★☆
一人称で、語りと説明が主であり、描写が少ない。『石の来歴』では父子二代による話によるためそういう形式なのかと思ったが、単純にこの形式をスタンダードに使っている様子である。語り口はなめらかで言葉選びや考察の味わいはよいが、陳腐な表現もあり、説明過多で小説としての表現の面白味が損なわれている部分もある。
(2)構成★★☆
「三つ目の鯰」や「父が遺骨を川に流せと言った理由」などの伏線が機能はしているが思ったほどの効果はあげていないように思う。過剰な説明で入れ込みすぎた周辺情報で目線が散ってしまうのが原因かと思う。
(3)論理★★☆
特に気になった部分はなかった。
(4)テーマ★★☆
「アニミズムに支えられる家制度とキリスト的西洋思想のぶつかり」を具体的なモデルに置き換えて描いていると思った。
3.総合評価と感想
総合★★★☆☆
庄内の山や水田とアニミズムや家制度がうまく混ざりあい雰囲気は十分出ているのだが、文学的な物足りなさを感じてしまった。理論としてはわかるのだが、読後に残るものが希薄で、もう一歩先を表現したものが翌年の芥川賞受賞作『石の来歴』となるのだろう。