純文学1000本ノック

ただひたすらに純文学の読書感想を並べていきます。

吉本ばなな『アムリタ』 幻想的な日常の物語 純文学1000本ノック 29/1000

 

どうも、こんにちは

 

今回は、吉本ばななの人気作『アムリタ』を読んだよ。幻想的で悲劇も喜劇もまぜこぜな不思議な物語だけど、どこか愛おしい雰囲気を持った作品だった。

 

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 1.読後感
子どもの頃の夏、が持ってるような、甘くて楽しい日々からの、終わりが近づく時みたいな哀しくも優しい気持ちになれる物語だった。吉本ばななを読んだのは『キッチン』『TSUGUMI』に次ぐ三作目だが、これらの作品には全て共通して、夏と海の雰囲気が漂っている。

 

2.ザックリあらすじ

(1)メランコリア

これは序章のようなものだった。わたし(朔美)、弟(由男)、いとこ(幹子)、母、母の友達(純子さん)という不思議な構成の家族と暮らす日々が描かれている。以前、朔美の美しくかつて芸能界で活躍した妹の真由は亡くなっていた。家族はまだその悲しみを乗り越えられていない。その恋人の作家の竜一郎もまた悲しみの中にいて、一人旅に出る。

(2)朔美、頭を打つ

本編は朔美が急な階段から落ち、頭を打ったことから始まる。朔美は記憶があいまいになり、ぽつぽつ記憶が戻り始めても、以前の自分とは全く変わった感じ方をするようになる。その影響で朔美と竜一郎は急接近し、恋仲になる。

(3)弟の変化

今まで「給料がいいから、将来は商社マンになる」と言うような子供だった弟が、ある時から変わり、小説家を志望するようになる。しかし、次第にそれもやめ、学校も休みがちになり、塞ぎ込むようになる。朔美は友人の栄子の不倫相手が所有する高知の海沿いにあるマンションに弟と旅行に行く。

(4)サイパン

高知で元気を取り戻した弟だったが、東京に戻ると、再び元気がなくなり始めてしまう。弟は超能力のようなものにより、起こる出来事など様々なことが見えるようになっていることを朔美が知る。竜一郎の誘いにより、朔美はサイパンに旅行に行く。彼らは彼の友達でサイパン在住のコズミくん、その奥さんのさせ子と過ごす。コズミくんもさせ子も不思議な力があり、朔美は日本で息苦しくしている弟をサイパンに呼ぶ。弟はサイパンで皆と触れ合い、元気を取り戻していく。

(5)朔美の記憶が戻る

朔美は記憶が完全に戻り、頭を打つ以前の自分自身も同じ体に復活する。それと同時に朔美は、とてもハイになり、日々がハッピーに感じる。一方で、弟は家族に内緒で学校をさぼっていたことがばれる。弟は自ら、学校を休み、発達障害の子なども通う私立の児童院に入ることを決意する。その傍ら母の友人の純子さんが母のへそくりを盗み、家を出る。当たり前にあった不思議な家族の形が崩れる。

(6)弟と友達

弟は児童院に入る前に、女子大生のきしめん(かなめ)、その元恋人のメスマと知り合っていた。二人とも不思議な力の持ち主で、メスマのカリフォルニアの超能力施設行に誘われた弟は怖くなり逃げていた。メスマがカリフォルニアに行く前に朔美を通し、彼らは再び集まり、鎌倉を旅行する。

(7)その後

弟が児童院から家へ戻り、朔美は昔のバーのアルバイトへ復帰する。竜一郎は浮気をしたが、朔美の元に戻ってきて、二人は復縁する。しかし、勿論二人は以前のように楽しくは出来ず朔美は悲しくなる。朔美の生活は変わらず、流れていく。

3.魅力

この作品の一番の魅力は何と言っても、吉本ばななの軽く、それでいて美しい文体や、ポエムのような描写だと思う。ストーリーは内容が日常であるためと語り手の朔美が妙におっとりした視点な為、起伏は大きいわけでないが、それを差し引いても余りある魅力が作品には詰まっている。作者の吉本ばななは、あとがきにおいて、この作品を書いた時期は非常につらい時期であったこと、自殺を真剣に考えていたことを書いている。この作品はそれらの苦しみを内面から癒していくために描かれた物語であるのだ。故に、哀しみの中に、喜びが、一筋の希望が残されている。作者自身、朔美の希望の光を湛える心に救われたのだろう。

 

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