純文学1000本ノック 51/1000 李琴峰『独り舞』
どうも、こんにちは。
今回は李琴峰『独り舞』。2017年群像文学新人賞を受賞した本作。作者は台湾人として生まれ、第二言語の日本語で書かれています。日本人を凌駕するその筆力には素直に脱帽してしまいます。
1.ざっくりあらすじ
台湾生まれのレズビアンの趙紀恵は、‟生の辛さが我慢できる範疇を超えてしまったら”死を選ぶという死生観を持ち、暗い過去の記憶を振り切るために日本に出て来て生活している。しかし、会社などでカミングアウトできないことで、ストレスのたまる日常を送り、彼女に振られたことで精神状態が悪化してしまう。そこから彼女はひたすら過去の苦しい記憶を辿っていく。そして、過去の呪縛がある事件で現実に表出し、死を決意して旅に出る。
2.作品解剖
(1)導入★★☆
‟死ぬ。死ぬこと。”からはじまる導入部分。死生観を語りながら、すでにその限界が迫ってきていることを感じさせるいい導入だと思います。しかし、その後の主人公のセリフ‟人類が滅亡してくれないかな?”などは若干幼さを感じ、作品を安く見せる気がします。
(2)描写★★☆
普段の描写から美しい部分、暗く汚い部分を見事に描かれており、素晴らしいです。
(3)内面★★☆
自己憐憫的すぎる嫌いはあるものの主人公の内面に深く入り込んでいると思います。
(4)文体★★☆
三人称主人公視点で、語り手と主人公の距離は非常に近いです。主人公を「彼女」と表記し、他の人物は固有名詞で表現しています。途中途中で若干難しい用語が鼻にかかるような雰囲気がありますが、全体を通して非常に高いクオリティです。
(5)構成★★☆
冒頭で限界の近づいている主人公からはじまり、現代を挟みながら過去の闇が暴かれていく形式です。最終的には現代に戻り、物語が進みます。
(6)論理★☆☆
終盤の論理性で残念な箇所が二点あるように感じました。それは、サンフランシスコでの女性との出会いと関係をもつこと、自殺を試みて止められたこと、の二点です。かたくなに拒否していた関係をあっさりと持てるのが、不思議です。なぜ自殺現場に元カノがいるのか、この作品最大の謎になってしまっています。
(7)テーマ★★★
性的マイノリティの苦悩を死を意識する非常にセンシティブな主人公の立場で描いたことが面白いです。「死」が常に作品の根底に流れていますが、「生」の理由づけは若干弱い気がします(この主人公は、また辛いことがあったら死のうとしてしまうのではないかと思いました)。
3.総合評価と感想
総合★★★☆☆
ゲーテの名著『若きウェルテルの悩み』にあるように、限界を迎えれば人間は死を選ぶ、という死生観がこの作品の主人公にはあります。ここ最近自殺を選ぶ芸能人が多いことは悲しいことですが、その背景には独りでは抱えきれない悲しみがあるのではないでしょうか。一人ひとりの抱える問題は違うと思いますが、この作品は自殺について考える一助にもなると思います。