純文学1000本ノック

ただひたすらに純文学の読書感想を並べていきます。

純文学1000本ノック 6/1000 石田衣良『娼年』 娼年の心の動きとSEXを軽やかに

 

どうも、こんにちは。

 

今回は 石田衣良の『娼年』を読んでみたよ。こちらの作品は純文学ではないという向きも多いだろう(実際直木賞の候補作に入っている)。しかし、純文学に必須な芸術性ともいうべきものはある程度担保されている作品でもある。

 

1.読後感

 

最も純文学と異なる点はこの読後感かもしれない。多くの純文学が読後に暗い色の影を心に残していくのに対し、本作は娯楽作品に見られるような爽やかさを心に宿してくれる。なので本質から言えばやはり純文学ではないのであろう。ただ、一方で娼年が見る世界やSEXを軽やかに美しく描き出しているのは事実である。

 

2.ザックリあらすじ

 (1)ママとの出会い

リョウは大学にろくに通わず、バーテンダーとしてアルバイトばかりしているが、ホストで地元の友人のシンヤがある日バーに連れてきた御堂静香という少年売春のクラブを運営しているママに見初められる。リョウは彼女のテストに合格し、女やSEXがつまらないと思っている自分の価値観が変わるのか確かめるべく娼夫として働き出す。

(2)女性の欲望を見る

リョウは娼夫として働く中で、戸惑いながらもやりがいを見出し、より女性の欲望を見極め知りたいと思うようになっていく。彼は様々な女性に買われ、欲望の解放を手助けするうちにその深みにドンドンはまっていく。一方で、バーのバイトは辞めないなど生活は変えず常に普通でいようとするスタイルを持ち続けている。

(3)ランクアップ

リョウはお客からサービスを認められ、クラブにも数人しかいないVIP用の娼夫へとランクアップを果たす。今まで以上に仕事の依頼が舞い込み、娼夫の仕事に力を入れるようになる。

(4)クラブの解散

リョウは御堂静香から力を認められ共同経営の話を持ち掛けられる。大学の友人であり、彼に好意を抱いているメグミに娼夫の仕事を反対されるが、リョウは客として来た彼女に自分が娼夫であることを見せつけるようにSEXをした。彼女は失意の内にリョウを救い出すという身勝手な思いからクラブを通報する。御堂静香は逮捕され、クラブは解散する。しかし、彼女の娘の咲良が顧客情報などは記憶しており、リョウは彼女らと共にクラブを再建させ、その仕事をこれからも続けることにする。

 

3.考

非常に充実した内容だった。思うに、筆者は最初にこのストーリー(娼夫の仕事やSEXの内容)を思いつき、それに肉付けをする形で話を作っていったのではないだろうか。その証拠にリョウ自身の性格(普通、何かを探しているような若者、俯瞰して周囲を見るような目線、女性への優しさというより人類愛のようなもの)などはこの作品を一貫して流れているというよりはその時々で移ろっているように見える。これは意図的なものというよりはメインを娼夫に置いていたことによるものだと思われる。しかし、軽やかな少年の心の動きやSEXの緻密な描写などは熱がこもり、素晴らしいものがある。

 

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