純文学1000本ノック

ただひたすらに純文学の読書感想を並べていきます。

純文学1000本ノック 48/1000 夏目漱石『門』 あらすじ&解説と魅力

どうも、こんにちは。

 

 今回は、夏目漱石の『門』。『三四郎』、『それから』に続く三部作のラスト。

 

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1.読後感

御米と宗助の認識の違いにやるせないかなしさを感じた。

 

2.ざっくりあらすじ

(1)小六の問題

薄給の役所勤めの宗助は、妻の御米と共に日々の忙しさでぼんやりと過ごし、弟の小六の今後の進学についての問題を、叔父夫婦の佐伯へ話をしないまま過ごしている。才気活発な小六はそんな兄の姿を見て、はやく話し合いをしてくれと談判しにくる。

(2)二人の過去

御米はその昔、宗助の親友の安井の妻だった。宗助は若さからくる熱情でそれを奪う形で妻としたため、親や親族からは勘当され、志半ばに大学を中退し御米とともに広島や福岡を転々と過ごしていた。父の死に際し、忙しさから叔父の佐伯へ遺産の整理をお願いしたが、遺産の処理については聞けないままだった。佐伯は東京にいた小六を引き取り、宗助の実家を売った。宗助は大学の同期の斡旋で役人となり東京へ戻るが、佐伯と遺産の話ができないままに佐伯は他界してしまう。そして、叔母の佐伯から、小六の進学費用は出せないと言われた。

(3)話し合い

いざ宗助が叔母と話し合いをすると、遺産の金は他界した叔父が小六の将来のために家を買い、それが焼失してしまったとのことだった。そして、叔母は金がないので小六の世話は厳しいという立場を取る。宗助は困り果て、ひとまず小六を家へ引き取ることにする。

 (4)家主の坂井

小六の処遇を決めかねていた宗助は、近くに住む家主であり資産家の坂井と仲良くなっていた。その坂井と交流するうちに坂井が家に小六を書生として迎えるように提案する。宗助はその提案を有難く受け、小六の今後の目途をつける。

(5)安井

坂井は海外で活動する山気の強い弟がいて、その弟が帰国した際に偶然安井をつれて家へ来るという。坂井は事情を知らず宗助をその場へ招待するが、宗助は御米にも相談できず一人罪の意識にさいなまれ、不安を解消するため禅寺へ修行に向かう。禅寺では結局悟りを得ることができず、帰宅すると坂井のもとからその弟と安井は去っていた。宗助はなにも解決できないまま、春を迎える。

 

3.解説と魅力

小六のように才気活発な主人公がいた『三四郎』、やや落ち着いて裕福な実家から生活費をもらいながら思索に耽る無職の主人公の『それから』、本作の宗助という主人公は、その先を描いた人物である。『それから』で、強く否定していた「生活のための仕事」をする宗助。現代のサラリーマンのように日々に追われ、大切なことに手がつかなくなってしまっている。小六の問題は一応の解決をしたが、解決した理由は坂井の申し出によるところが大きく、全く自分自身では解決できていない。最大の問題である安井への贖罪については、逃げるのみで、ラストシーンでの夫婦の会話においては御米と宗助の世界の認識の差が浮き彫りとなっている。御米の「本当に有難いわね。漸くの事春になって」に対して宗助は「うん、然し又じき冬になるよ」と返す。

この作品の魅力のなかで、私がとくに感じたのは、文体の変化である。『それから』では、いまだ主人公代助の視点が多く、至極論理的な代助が世界を捉えたように映るが、本作においては、主人公宗助の視点を客観的に捉えられている。これはもちろん作者の意識的な使い分けだろうが、それによって主人公宗助の成長と客観化を読者は感じるのである。また、夏目漱石の文学のなかにある自己にたいしての徹底的な潔癖さ(自分のやましいことを決して自分自身が許さない)は引き続き作品の根底に流れており、そこに私は魅力を感じずにはいられない。

 

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