純文学1000本ノック 19/1000 遠藤周作『白い人』 人間の本質とは何か
どうも、こんにちは。
今回は遠藤周作が芥川賞を受賞した『白い人』。これは衝撃的な作品だったね。前回『深い河』で感激し今回も遠藤周作。いやあ、読んでよかった。
1.読後感
直前までの燃え上がるような展開の中、身体中の血が震え立つほどの衝撃を受けた。硬質で武骨な印象のある語り口に対し、情景描写は繊細で美しい。リヨンの欺瞞と正義に満ちた空気の中で、悪として成長した彼・・・。
2.ザックリあらすじ
(1)悪への目覚め
現在連合軍がリヨンへ侵攻してきている。いずれ陥落するだろうが、ナチのゲシュタポの手先として働いている主人公は身の危険を感じ、記録として昔のことを書き留めている。幼いころ、父は放蕩癖でその様子を見た母は息子(主人公)のことを厳しく教育する。何の自由も無い生活の中、彼はイボンヌという女中が老犬を虐待する姿を見た。そこで彼女の白い太ももを見て、彼の中での情欲が異様な形で目覚める。
(2)悪の深化
しばらくは周囲に合わせ生活していた主人公だが、父の出張先でアラビヤに連れていかれ、突然に自由を得る。そこで彼は見世物をする女と少年の芸を見る。女は少年を曲芸で痛めつける。主人公はその様に興奮し、あくる日少年を見つけ自分も彼を痛めつけた。
(3)リヨン大学
リヨン大学に進学した主人公はジャックという神学校の生徒に同じ醜い姿をした者として神に仕えないかと執拗に勧められる。主人公はこの男に復讐する為、彼の愛するマリー・テレーズという醜い女学生を捕まえ、舞踏会に連れ出した。それを知りジャックは憤怒した。
(4)ゲシュタポへの協力
戦局が徐々に悪化し、遂にリヨンにもナチが侵攻してきた。主人公は極めて先進的な支配を行うナチに対して感服しており、自ら志願しゲシュタポの通訳を手伝う。主な仕事は拷問中の反独運動者への通訳などだった。
(5)ジャックの拷問
神学生としてナチに反対していたジャックは反独運動者として活動していた。彼は掴まり、主人公が働く拷問部屋に連れてこられる。主人公はジャックを自ら拷問し、彼の神への信奉を打ち倒そうとする。なかなか口を割らないジャックに主人公はマリー・テレーズの存在を思い出し利用する。遂に主人公は彼女を襲うが、耐えきれなくなったジャックはキリスト教で大罪とされる自殺をしてしまう。
3.魅力
怖ろしい内容の中に、人間としての主人公、幼少期の出来事や醜い顔へのコンプレックスなどが詰まっており、人間の多面性を垣間見ることが出来る。遠藤周作は人間を一元的に観察しておらず、多面的な側面から見ているのだろう。作者自身がキリスト教であったこと、恐らく自分自身葛藤したであろうその教義への疑問や矛盾などへ、正面から向き合った作品である。ストーリーの綿密さ、作品の重苦しさにマッチした語り口の硬質さや美しい描写などテクニカルな面でも非常に秀でており素晴らしい作品である。
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